前回の記事ではIFRS減損テストにおけるCGUの設定方法について解説しました。
関連記事:IFRSの減損テストにおけるCGUの設定(日本基準との比較)
本記事では、IFRSのれんの減損テストにおいて、のれんをCGUにどのように配分するのか、会計基準で定められているルール及びIFRS適用企業の開示例について解説します。
目次
IFRSにおけるのれんの評価
まず前提として、IFRSにおいては、日本基準と異なり、のれんの規則的な償却は行われません。その代わり、少なくとも年1回は必ず減損テストを実施することが求められます。
従って、毎期の償却費は発生しませんが、一方で業績が悪化した際などには、多額の減損損失が一度に発生するリスクがある点に注意が必要です。
【参考】 日本基準についてものれんの非償却の議論が行われていましたが、2026年7月に財務会計基準機構(FASF)が非償却の導入についてASBJに提言しないことが決定されました。従って、日本基準での非償却の導入は当面は見送られたことになります。
のれんの配分に関するルール
のれんは、それ単独で独立したキャッシュ・フローを生み出すことはありません。そのため、のれん単独で減損テストを行うことはできず、関連するCGU(資金生成単位)またはCGUグループに配分した上でテストを実施することになります。
では、具体的にどのように配分するのでしょうか。これが本記事のメインテーマです。
基準では、買収のシナジーから便益を得ると見込まれるCGUまたはCGUグループに配分した上で、減損テストを実施すると定められています。したがって、まずは買収によるシナジーの恩恵を受けるCGUやCGUグループを特定することが出発点となります。
また、のれんを配分する対象となるCGUまたはCGUグループの単位には、下記の条件が設けられています。
(1) IFRS第8号において定義される「事業セグメント」より大きくならないこと
(2) 内部管理目的でのれんがモニタリングされる最小レベルを表していること
のれんをより大きなCGUグループに配分して減損テストを行う方が減損は発生しにくくなることから、上記のような制限が設けられています。
また、(2)の「内部管理目的でのれんがモニタリングされる最小レベルを表していること」という条件はわかりにくいかもしれません。前提として、企業はのれんを直接モニタリングするというより、のれんが属する事業活動をモニタリングしているため、のれんの配分においては、経営陣が実際に事業活動をモニタリングしている単位を考慮する必要があると考えられます。
例えば、買収により取得企業の既存のCGUの価値も高まる場合 には、買収により発生したのれんは既存のCGUと新しく取得した会社をあわせてグルーピングして減損テストを行います。
【具体例:物流会社のケース(コストシナジーの例)】
ある中堅物流会社は、業界全体に共通する燃料費の高騰やドライバー不足といったコスト圧力に直面しています。そこで同社は、人員や資産ベースの効率化を図るため、類似の配送エリアを持つ同業他社を買収しました。
買収後、以下のような統廃合を実施します。
- 営業、財務報告、人事などの管理部門を1つの本社機能に統合
- 両社が個別に保有していた各エリアの配送センターを、現在受け入れキャパシティに余裕のある単一の大規模拠点へと集約
これらの統廃合による「コスト削減」が企業結合のシナジーとなります。また、取得企業及び被取得企業はセグメント報告において単一の事業セグメントです。
上記の例において、買収により生じたのれんは、これらのコスト削減の恩恵を受ける取得企業の既存のCGU及び被取得企業のCGUをまとめたCGUグループに対して配分されることになります。
実際の開示例にみる、のれんの配分単位
実際の企業の有価証券報告書(注記)を見ると、のれんの配分単位は、企業が展開するビジネスモデルやシナジーのモニタリング手法によって大きく異なります。ここでは2社の事例を解説します。
事例① 武田薬品工業:事業セグメント単位(全社レベル)での配分
武田薬品工業の開示によれば、グループ全体を単一の事業セグメントとしており、のれんの全額を単一の事業セグメントに配分して減損テストを実施していることがわかります。

出典:武田薬工業会社 有価証券報告書 第149期 (※赤下線は筆者加筆)
武田薬品工業は、過去にはのれんを3つの資金生成単位グループ(全世界においての医療用医薬品、米国および日本を除く医療用医薬品、その他)に配分していましたが、2020年3月期より、のれんの減損テストを単一の事業セグメント単位で実施する形に変更しています。その背景として、シャイアー社の買収やグループシナジー最大化のための事業統合を契機として経営管理体制を再編したことにより、のれんの配分を変更した旨が説明されています(2020年3月期有価証券報告書より)。
事例② LINEヤフー:報告セグメントより細かいCGUグループへの配分
一方、LINEヤフーの開示では、のれんが「メディア事業」「コマース事業」「戦略事業」といった報告セグメントに対して一括で配分されるのではなく、さらに細かい複数のCGUグループ(例:メディア、アスクル、ZOZO、一休、金融など、各中核サービスや買収子会社単位)に細分化して配分されていることが確認できます。

出典:LINEヤフー株式会社 有価証券報告書 第31期
同社はポータルサイト、メッセンジャーアプリ、EC、金融決済など、多種多様なサービスを展開しています。買収によるシナジー効果がそれぞれの事業ごとに独立して発現し、経営管理においてもその事業や子会社の単位で事業活動をモニタリングしていると推察され、それを反映した形でのれんを配分して減損テストを実施しているものと考えられます。
まとめ
以上より、のれんの減損テストにおけるCGUの配分についてまとめると、下記の通りとなります。
- のれんは、他の資産から独立してキャッシュ・フローを生み出すことはないため、買収のシナジーから便益を得ると見込まれるCGUまたはCGUグループに配分した上で、減損テストを実施する。
- のれんを配分する対象となるCGUまたはCGUグループの単位は、①事業セグメントより大きくならないこと、②内部管理目的でのれんがモニタリングされる最小レベルを表していることが必要となる。

